オリーブさん  olive-san
15.Jun.'04
 
 転居を記念して、植樹をしたかったのだけれど、いかんせん、ここは地上10階。地面がない。植樹は断念するとして、記念の鉢植えを購入するべく、討議が重ねられた。
 結果、オリーブの鉢植えに決定。首飾りにして手品でも始めようというわけでは決してない(※首飾りにジャンプすると、音が出るので注意せよ!)。当面は、実を収穫して塩漬けにしようというわけでもないし、油が目当てでもない(※実は小生、オリーブの実の触感が少々苦手なのである)。こんな風に言ってしまうと“オリーブさん”に失礼だけれど、積極的な理由は特にないのである。敢えて挙げるならば、
 ・育てやすそう(乾燥にも強いとか)。
 ・……。
 ・…。
 ・かつて使用していたメールアドレスのドメインが“olive”で、
  このアドレスをとても気に入っていて、それが転居に伴って使
  えなくなってしまって、それでもなんだか“olive”というコトバが
  気になってて…。
 
 …要するに、積極的な理由はないのである。なのに、“オリーブさん”は、我が部に招かれた。連行された、とも言えるかも知れない。こんな人間に目を付けられなければ、どこか日当たりの良い大地に根を張って、わさわさと伸びられたかも知れない。そんな思いもあって、我が部のオリーブは、“オリーブさん”なわけである。
 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
 
 連行された“オリーブさん”には、まず、我が園芸部のホームスタジアムの特性に馴染んでもらわねばならない。
  @比較的風が強い。
  A比較的西日が強い。
  B比較的乾燥している
これは思うに、南イタリアの環境――Bは部長の心がけ次第だろ!――そのものなのだよ、などとオリーブさんに優しく話しかけ――賺し――ながら、早速歓迎の意を込めて、風邪で倒れたりしない程度の大ぶりな鉢に植え替える。
 手を尽くして入手した“オリーブの育て方”によると、なになに? 土はアルカリ性を好むと――。  アルカリ性? 土の性質をどうやって測るのか! 学研の「科学」でリトマス試験紙を入手したのははるか遠い昔。なめてみたところで分かるまい。さて、しばし沈思黙考の末、私は次のように判断を下した。
 …我が園芸部に蓄えられている土は、どちらかというと酸性である、と。
 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
 
 その理由。
・いつ購入したものか分からないほど古い。「古い」という状態が、私の中では「酸化」と結びつく、気がしてならないから。
・これまで我が部を訪れては去っていった数々の植物の枯れ果てた根や葉の腐敗したものが、おそらく大量に混入していると思われる。「腐敗」という状態が、私の中では「酸化」と結びつく、気がしてならないから。
・我が部が蓄えている土は、購入したもの以上に、鉢植えに付属してきた種々雑多な土を多く含むのであり、そもそもの得体が知れない。「得体が知れない」という状態が、私の中では「酸化」と結びつく、気がしてならないから。
そもそも、土を購入したり、鉢植えに付属してきた土が蓄積されていってしまうという状況自体が、土地を持たざるものの最大の弱点である。「土」というものは、簡単に持ってきたり、簡単に捨てたり出来ないのである。必然的に、過ぎ去りし者たちが残していった土と、その残骸は、次に訪れる者たちを歓迎するのに使われるのである。また、ベランダの限られたスペースでは、無計画に土を蓄えておくことも出来まい。目に余るようになってきたら、お盆の帰省の際にでも実家に運び、久しぶりに会う両親へ土産を渡す前に、菜園で羨ましいほどにツヤツヤと実っている茄子やキュウリの足下に、ほぉら、トーキョーの土だよ〜、などとまいてあげることになるのである――この東京土産(東京産土)が喜ばれているかどうかは極めて不審――。
 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
 
 さて、「酸性」であると判断した私は、早速石灰を購入してきて、なんだ、校庭にラインを引くやつじゃんか、などと憎まれ口を叩きながら、せっせと混ぜる。混合比? なぁに、気持ち、気持ち――。なになに? 混ぜたら馴染むまで2〜3日放置すると――。  だめだめ、明日は仕事だがね。だいちっからオリーブさんは既に古い鉢を脱いぢまってるし…。
 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
 
 そんな感じで、歓迎の意を表すつもりだったにもかかわらず、初っ端から厳しい洗礼を受けることになってしまった新人、“オリーブさん”であるが、あれから2週間、新しい芽なども出しつつ、あの方なりに精一杯、新しい環境に順応すべくがんばってくれている。ホント、植物ってやつらは与えられた環境の範囲でベストを尽くすものであるなぁと、しみじみと実感する。いやいや、環境や条件にばかりに文句を言って、何かをする前から諦めてしまったりするのは、人間くらいかも知れないな。
 
 園芸部よ、ベストを尽くせぇ!
 
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